「結城友奈は勇者である」の魅力について

 初めまして。どうしてもゆゆゆについて語りたくて衝動的にブログを始めました。よろしくお願いします。

 本記事ではゆゆゆの魅力について感想も交えて語っていこうと思います。ネタバレ注意です。また、魅力についてのみ語りたいので批判的な内容は一切含みません。ご了承ください。


【結城友奈は勇者である】
 この作品、一見すると特に目新しさを感じない作品でした。勇者は昔から今に至るまでよく扱われるテーマですし、ジャンルを見ても変身ヒロイン物と定番です。PVからはゆるい部活系日常アニメの香りがするし…。そんな印象だった本作ですが、見事に期待以上の面白さを見せてくれました。放送中は勇者部の行く末が心配で心配で毎週続きが気になってしょうがなかったです。
 この面白さの源として、この作品の基本的な構成である「日常系(切実)」または「新日常系」と呼ばれる構成が挙げられると思います。そのコンセプトは平和な日常を送る登場人物に過酷な状況を強いることで「かけがえない日常」を痛感させるというものです。(毎日新聞デジタルにおけるプロデューサーへのインタビュー記事よりhttp://mantan-web.jp/2014/12/20/20141219dog00m200037000c.html)単に日常と鬱展開を含む作品なら数多く存在すると思います。しかしこの作品ほど「彼女たちに日常を取り戻して欲しい」と視聴者が切実に願う作品は殆ど無いのではないでしょうか。そこでどのようにして「切実に」とまで感じさせるのか、に焦点をおいて考察していきたいと思います。


・日常パートについて
 このアニメには日常描写が多く、4話や7話など戦闘のない日常メイン回もあります。ゆゆゆの日常パートで特徴的なのは、ごちうさなどの難民系日常アニメと同質である点です。度々作画を崩したデフォルメされた顔になるなど、基本的に可愛く明るくコミカルに描かれています。岸監督は円盤1巻付録のブックレットでギャグは少なめだと語ってましたが訓練された難民的には十分笑えました。夏凜ちゃんの誕生会や樹ちゃんの歌のテストの手助けのような心あたたまるエピソードもあり、雰囲気は完全に萌え系日常アニメのそれです。普通は物語のメインストリームのおまけになりがちな日常パートですが、ゆゆゆでは質も量も確保していてかなり重視しているという印象を受けました。

 

・勇者部のキャラクターについて
 この日常のあたたかさと後に語る悲劇の悲痛さを強調する重要な要素が勇者部メンバーのキャラクターだと思います。彼女たちは夏凜ちゃんを除いて一方的に神樹様の勇者として選ばれて戦うことになります。一度でも負けたらその瞬間に世界が終わるというシビアな戦いです。しかも敵であるバーテックスは無策に攻めてくるわけではありません。初陣の翌日に一気に三体で攻めてきて連携の取れた攻撃を披露したり、勇者の数を上回る7体で総攻撃を仕掛けてきたりと戦術を持って行動しています。こういう敵は律儀に一体ずつ攻めてくるのがテンプレですが、序盤から敵が本気で殺しに来ているのは新鮮でした。この敵の強さは序盤において僕の視聴のモチベーションにもなっていました。
 このような敵に対して、ゆゆゆの勇者は「普通の勇者」と違って特別な血筋とか強大な魔力などは持っていません。アニメキャラ相応に普通の女子中学生です。彼女たちが勇者たるのはその心の強さによるものです。普段は明るくゆるくちょっとふざけたりもする勇者部。そんな彼女たちは性格は違えど、根っこの部分には共通して思いやりと勇気を併せ持っています。それらは言動や行動・仕草の端々から読み取ることができます。例を挙げれば、東郷さんを励ましながらも拳は震えている友奈ちゃんや、風先輩に逆向きに刀を投げる夏凜ちゃんなどなど。このような仕草で表現する心情描写は僕が非常に好きな演出です。下の画像はそのような演出のマイベストシーンです。f:id:dakitsu:20150113025756j:plain

味覚が戻った時に見せたほっとしたような優しい笑顔。友奈ちゃんにうどんいっぱい食べさせてやりたい。

  また彼女たちは非常に無垢です。勇者部員同士でからかったり対立することもありますが、悪意を向けることはありません。最初頑なだった夏凜ちゃんにも真っ向からぶつかること無く優しく取り込んでしまいます。皆仲良しで誰かが困っていたり挫けそうになったら他の誰かが手を差し伸べます。人を貶めたりといったドロドロした人間関係は一切ありません。見ていて安心できる気持ちのよい子達で、本当に愛おしく感じます。まさに萌え系日常アニメの登場人物をそのまま神世紀に連れてきたような印象を受けました。

 このような魅力的なキャラクターを強調するためにこの作品ではある特徴的な構成を採っています。それは勇者部の5人(+1人)以外の登場人物の徹底的な排除です。メインキャラクターを除いた人物は完全なモブとなっており、名前の出てくる人間がたったの6人という破格の少なさです。これは他には無い、この作品の強力なオリジナリティと言っていいと思います。この構成によって視聴者は脇役との余計な関係性にとらわれずに、勇者部メンバーのみに集中できたのではないでしょうか。また、物語が終始勇者部の視点で進行するため、登場人物に共感しやすくなっています。この点とも合わせて本作では視聴者の勇者部への思い入れを強くさせることに成功していたと思います。


・悲劇パートについて
 前半は日常パートが多く雰囲気も全体的に明るい本作ですが、序盤から不穏な伏線が随所に散りばめられていました。決戦で満身創痍になりながらも敵を全滅させることに成功し祝賀モードな勇者部でしたが、ここから伏線の回収が始まります。
 戦いの後、勇者部メンバーは体の機能の一部を失うという後遺症を負います。当初は一時的なものだと軽く受け止めていた彼女たちですがいつまで経っても治らず不安になっていきます。(ちなみに後遺症発覚が7月8日で最後の戦いが9月末だと思われるので最終的には2ヶ月以上障害を抱えていたことになります。)そんな時、生き残りのバーテックスの討伐をきっかけに乃木園子と出会い、満開の後遺症は神樹への供物であり二度と戻らないことを知ります。世界を救った功労者に対してあまりに理不尽な代償です。9話で描かれた犬吠埼家の状況は特に悲痛なもので、樹ちゃんは日常生活に支障が出ており、風先輩もこれまで以上の苦悩を抱えることになりました。頑張ってきた彼女たちが受ける酷な仕打ちに憤りを覚える展開でした。
 しかし悲劇はそこで終わりではなく、一人で乃木園子に会いに行った東郷さんは更なる悪夢のような事実を知ることになります。なんとウイルスが蔓延しているだけで健在だと思われていた地球は幻で、四国以外の世界は星屑という生物が跋扈する地獄だったのです。更にバーテックスは星屑によって無限に再生し、何度でも襲ってくることが判明します。つまり勇者の戦いに終わりなどありませんでした。想像できるのは、散華によって徐々に日常を奪われていき、最後には乃木園子のように自由も失う未来。また、散華によって記憶を失うこともわかっているので、友だちとの大切な思い出すら失ってしまうのでしょう。じわじわと過去も未来も奪われていく、これ以上ないくらい絶望的な状況です。底の見えない絶望にゆっくりと落ちていく展開・・・上げて落とすタイプの中でも相当嫌らしい部類になるのではないでしょうか。
 しかもこの話、友奈ちゃんが言ったように誰も悪くありません。騙して戦わせた大赦は許せるものではありませんが、勇者をためらわずに戦わせるには散華のことは隠すのが効果的です。知らせていたら勇者部は結成すらできていなかった可能性が高いと思います。おそらく最初は騙して戦わせて、後は勇者の善意を利用してお役目に縛り付けようという魂胆だったのではないでしょうか。卑怯で冷酷なやり方ですが大赦も防衛の成功確率を上げるのに必死でなりふり構わないということなのでしょう。
 バーテックスとの戦いには善も悪もありませんでした。まるで自然災害との戦いのような、誰もどうしようもない、終わりのない防衛戦です。この絶望的な悲劇が彼女たちの頑張りを見てきた視聴者に憤りや悲しみを与え、彼女たちに救いを与えて欲しいと切実に願わせる直接的な要素になっていたと言えます。


・勇者であること
 悲劇的な状況のまま勇者部は最後の戦いを迎えます。前回の決戦の時とは違って満開すれば散華が来るとわかった状態での戦いです。無尽蔵に強い力を振るえる普通の勇者たちとは違い、勇者部の戦いには非常に大きなリスクがありました。
 しかしこんな状況でも勇者部は不屈でした。たとえ誰かが挫けても必ず別の誰かが励まします。彼女たちはどんな状況にあっても変わらない本物の思いやりと勇気を見せてくれました。理不尽な目に会い過酷な現実を目の当たりにしても、健気に戦い続ける…。そんな姿に非常に心を打たれ、心から応援したくなりました。
 この作品を見るまで勇者のイメージは血筋や才能によって強大な魔力を持つとか凄まじい戦闘力を誇るなど、ファンタジックで僕たちがなれるものではない非現実的な存在でした。しかし彼女たちはより僕たちに身近な位置から「勇者であること」を示してくれました。作中で語られる勇者適正とはそういうところにあったのではないでしょうか。


・まとめ
 以上、日常、キャラクター、悲劇、勇者であること、と分けて「切実さ」の要因について考察してきました。アニメの日常は登場人物にとっては大事なものでも視聴者から見れば他人事どころか虚構の出来事です。しかしこの作品では上述したような要素によって彼女たちの日常のかけがえのなさを視聴者に強く印象付けることに成功していました。
 また、この作品は可愛くてコミカルな日常や残酷で理不尽な悲劇、そんな状況でも諦めずに支えあって戦う勇者部など色んな側面から楽しむことができます。しかしこれらは独立ではなく、うまく噛み合ってお互いを強調しあっていました。このような物語を実現し最大限に演出するために、様々な要素を駆使した尖った構成になっています。そこが「結城友奈は勇者である」という「アニメ作品として」の最大の魅力ではないでしょうか。目新しさが無くても様々な要素を駆使して今までにない面白いものを作り出せる、アニメ作品の可能性を示してくれた非常に価値の高い作品だったと思います。

 放送中はとにかく続きが気になり、少ない情報からあれこれ想像して推理を楽しむことができました。また、見直すと新たな発見があったりと隅から隅まで楽しめる作品でした。世の中を包むドライな雰囲気の中で、無垢で健気な勇者部の皆が見せてくれた思いやりと勇気は心に刺さりました。ゆゆゆに出会えて本当に良かった。