こんにちは。ゆゆゆBD5巻が発売されましたね。
この5巻には第9話が収録されてますが、僕は放送当時非常に感銘を受けまして…この1話でゆゆゆが名作だと確信しました。非常に濃密な回で演出や声優の演技など見どころしかない回です。ネット上でも評価の高い1話だと思います。今回はこの9話を感想や考察を交えながらストーリーに沿って読み込んで行こうと思います。

 

 

 8話の後半、乃木園子が真実を告げるシーンがゆゆゆ全体の転換点になっており、以後コミカルなシーンはほぼ皆無となります。9話も例外ではなく、ずっと暗い雰囲気で物語が進行します。また、終始風先輩の主観で物語が進行します。これは樹ちゃん視点の物語だった4話と対応関係にあります。タイトルも、4話は風先輩の勇者服のモチーフ、オキザリス花言葉である「輝く心」。そしてこの第9話のタイトルは樹ちゃんの鳴子百合の花言葉「心の痛みを分かる人」でした。


 冒頭、友奈ちゃんと東郷さんは乃木園子から聞いた勇者システムの真実を風先輩に伝えます。ちなみに、この日は2体目のジェミニとの戦いの翌日、9月3日だと思われます。風先輩は確認が取れるまで樹と夏凜には伝えないで欲しいと冷静に指示を出します。確かに園子が本当の事を言ったかどうかはわからないため、懸命な判断と言えると思います。しかし雨を降らせ始めた空を呆然と見つめるなど、頭ではわかっていても感情が追いついていない様子です。意識してか、無意識にか…後遺症は治らないという情報を認めたくないゆえの指示のように思えました。

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 その後、風先輩は一人でかめやに寄ってうどんを注文します。一見のんきに思える行動ですが、できるだけ日常的な行動をして平静を保とうとしていたのかもしれません。「最近は皆一緒で来ないのね」と心配する店員さんに「友達の調子が悪くて…」と答える風先輩。味のわからない友奈ちゃんに気を使ってここ最近は勇者部皆では来ていなかったのでしょうか。明るく受け答えをする風先輩ですが空元気な様子。環境音によるリアルな雰囲気が虚しさを一層強調します。「治ったら…」と言いかけて先ほど後遺症はもう治らないと言われたことを思い出したのでしょうが…「また来ます。皆で。」と続けてしまいます。何気ない日常が満開の後遺症によって既に壊れ始めていたことを示すシーンでした。その夜、風先輩は後遺症について教えて欲しいと大赦にメールを送ります。

 

 場面変わって、ある日の学校。風先輩は友達からの遊びの誘いを断る樹ちゃんを見かけ、話しかけます。「行ってきたらいいのに」と言う風先輩に対して、[カラオケで歌うのが好きな人達なんだ]と返す樹ちゃん。よくわからない様子の風先輩に樹ちゃんは[私がいると気を使ってカラオケ行けないから]と続け、困ったような笑顔を浮かべます。そこで風先輩は漸く樹ちゃんの方こそ気を使って遊びを断っていたことに気づきます。「でも…」と何か言おうとした時、樹ちゃんの担任が話しかけてきます。樹ちゃんの身内である風先輩と話がしたかったらしく、空き教室で担任と風先輩の二人は面談を始めます。9話においてBGMが流れるシーンは3箇所しかありませんが、そのうちの一つがこの面談のシーンで悲しげな曲が流れます。そこで担任は樹ちゃんの授業に支障が出ていることを告げます。話せない樹ちゃんに対し一部の授業に関しては個別対応することなどを説明する担任。しかし風先輩の耳にはあまり入って来ていない様子です。ただただ「きっと治るから…」と自分に言い聞かせるのでした。

 おそらくその夜のシーン。夕食を作り、樹ちゃんを呼ぶ風先輩。しかし、返事がありません。呼びかけても返事ができないので樹ちゃんの様子は見えない所からはわからないんですよね。部屋まで呼びに行くとデスクで眠ってしまっている樹ちゃん。風先輩はそんな樹ちゃんをじっと見つめ、優しく揺り起こすのでした。食事を始める二人ですが、とても静かで若干気まずい空気が流れます。BGMも無いので視聴者にもその静寂が伝わってきます。沈黙に耐えかねて明るい調子で天気の話を始める風先輩ですが、樹ちゃんの頷きで会話がすぐに終わってしまいます。今度は文化祭の劇の話を始める風先輩ですが、樹ちゃんはなにか言いたい様子。字を書き出す樹ちゃんですが、筆談では答えを聞くのに少し待たねばならず微妙にテンポの悪い会話となってしまっています。樹ちゃんの答えは…
[私、セリフのある役はできないね]
ここで風先輩は樹ちゃんが劇へ出演できなくなっていたことに気がつきます。[だから、舞台裏の仕事をがんばるね]と続ける樹ちゃんを「大丈夫だって!治るよ、きっと文化祭までには」と風先輩は根拠なく励まします。そんな風先輩に樹ちゃんは目を細め、優しく微笑むのでした。

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 その後、灯の落ちた薄暗いキッチンで、独り見えなくなった左目を鏡で確認する風先輩。ここ以外に自分の目を気にしているシーンはほとんどありません。自分より樹ちゃんのことをずっと気にかけていました。

「絶対治る。だってみんな、何も悪いことなんかしてないじゃない。」
そう自分に言い聞かせながらメールを確認しますが、大赦からの返事は送られてきません。この時点で後遺症を負ってから2ヶ月ほど経っていますが、治る気配は全くありませんでした。今まで当たり前にできていたことができなくなっていた事に風先輩がどんどん気づいていく…そんな日々がここまでに描かれます。


 ある日、東郷さんが風先輩と友奈ちゃんを呼び出します。見てもらいたいものがある、と言って小刀を取り出す東郷さん。次の瞬間、いきなり自分の首をかき切ろうとしますが青坊主が出現して間一髪ガードします。こちらも数少ないBGMが流れるシーンの一つで、不穏な音楽が流れます。精霊が止めなかったらどうするつもりだったんだと怒る風先輩ですが、東郷さんは精霊は確実に止めると落ち着いた様子で答えます。実は東郷さんは既に10回以上自害を試み、勇者を死から必ず守る精霊の振る舞いを確かめていたのでした。その体験を踏まえ、精霊は勇者システムを起動せずとも現れ、勇者の意志と関係なく動くことを示唆します。このことから、精霊には勇者をお役目に縛り付け戦わせ続けるという役割があるのでは、と東郷さんは推論したのでした。何事も好意的に捉える友奈ちゃんは「守ってくれるなら悪いことじゃないんじゃないかな」と提言します。確かに「それだけ」ならば悪いものではないかもしれない、と言う東郷さん。しかし、園子の言っていた「勇者は決して死ねない」という言葉の裏付けが取れてしまった。園子が本当のことを言っていたのだとしたら、彼女が告げたもう一つの真実「満開の後遺症は治らない」という話も信ぴょう性を帯びてくる。園子という前例があった以上、大赦は満開の後遺症について知っていたはず。
勇者部は何も知らされずに騙されていた、と結論付けます。信じたくなかった真実を目の当たりにして涙を流す風先輩。
「知らなかった…知らなかったの…」
勇者部のムードメーカーとして明るく振る舞う一方で、裏では色んな物を背負い込んで頑張ってきた彼女が泣く姿…内山さんの名演もあって非常に悲痛なシーンです。風先輩が謝るたびに細やかにフォローしてきた友奈ちゃんですが、今回はそのような描写はありませんでした。人に悪意を向けられない友奈ちゃんですから「大赦が勇者を騙していた」という結論に対して何も言えなかったのかもしれません。

 風先輩が勇者になった理由はいくつもあります。世界を守るため、大赦に生活の面倒を見てもらっているため、そして両親の命を奪ったバーテックスへ復讐するため…更に勇者に選ばれる確率はとても低いと言われれば勇者候補になるしかなかったのは間違いありません。しかし実際には讃州中学勇者部が勇者候補の本命であり、大赦は情報を意図的に隠すことで勇者部を結成させ、勇者たちを戦わせていたのでした。選択肢など無かった風先輩ですが、4話では妹を危険な目に合わせる可能性のある道を選んで良かったのかどうか悩んでいることを樹ちゃんに打ち明けました。その時、樹ちゃんは「お姉ちゃんは間違ってない」と堂々と伝えましたが…結局、勇者部結成の実行者として仲間と大切な妹に一生治ることのない障害を負わせてしまったことを知り、風先輩は深く傷つきます。


 その翌日、夕焼けの中を犬吠埼家へ自転車で向かう夏凜ちゃん。(この日は後の10話での描写から、東郷さんの自害実験告白の翌日だと言われています。)大赦から「精神的に不安定になった他の勇者4名を監督せよ」という命令を受けてのものでした。

 犬吠埼家では風先輩がうつろな表情で調査状況を教えるよう大赦にメールを送っていました。以前と比べて短文になっており、もう何度も送っているような印象を受けます。病的な内容と頻度でメールを送ってくる風先輩に危機感を持った大赦が夏凜ちゃんに対応するよう命じたのかもしれません。メールを送った直後、固定電話が鳴ります。電話の主はイオナミュージックと名乗る音楽会社。力なく受け答えをする風先輩ですが、樹ちゃんがオーディションを通過したと言われて驚きます。思わず話の途中で受話器を落とし、慌てて樹ちゃんを呼びに行きますが、パソコンを開きっぱなしにも拘らず樹ちゃんは部屋にいませんでした。この時樹ちゃんがどこにいたのかは不明ですが、メールで審査通過の連絡を受けてトイレかどこかで泣いていたという考察を見てなるほどと思いました。そこで風先輩は机の上に開きっぱなしのノートを見つけます。そこには声を治すための健康法や、治ったらやりたいことのリストが記してありました。健康法は「よく寝ることと栄養のあるものを食べる」という散華に対しては無意味な方法で、皮肉にも勇者部五箇条の一つに相当します。やりたいことリストは喋ることと歌うことで、当然ながらもう二度とできないことばかりです。

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また、机にはのどを治すための健康法や発声法に関する本が並んでいました。これらを見て呆然とする風先輩ですが、ハッとして開きっぱなしだったパソコンを操作します。 デスクトップ上にオーディションというファイルを見つけ再生する風先輩。そこには樹ちゃんの最後の肉声による秘めた思いが録音されていました。

 冒頭は自己紹介で志望理由が語られます。応募した理由は歌うのが好きなことの他にもう一つあるという樹ちゃん。それは自分なりの生き方を見つけたいから、というものでした。自分のお姉ちゃんは強くてしっかりもので、常にみんなの前に立って歩いていること。そんなお姉ちゃんに比べて自分は臆病で弱くて、お姉ちゃんの後ろを歩いてきた。けど本当はお姉ちゃんの隣を歩きたかった。そのために、自分自身の夢を、生き方を持つために、歌手を目指す。樹ちゃんの夢を初めて知った風先輩は驚き、声を漏らします。自己紹介は更に続き、最初はあがり症で歌えなかったこと、勇者部のおかげで人前で歌えるようになり歌うのが本当に楽しい、そして自分の好きな歌を多くの人に聞いて欲しいと真剣に語ります。それを聞いて震える風先輩。そんな彼女の元へ大赦がやっと返事をよこします。その場で確認する風先輩ですが、送られてきたのは「調査中とじき治る」というこれまでと変わらない定型文でした。前日のやりとりがあった以上、風先輩は治るという希望はもうほとんど持っていなかったはずです。それにも拘らずに大赦と連絡を取りたかったのは、これまで信頼していた大赦から直接真実を聞きたかったからか、情報を確定させて無駄な希望を持ち続けたく無かったからか…しかし大赦は誠実な態度を取るどころかこの期に及んでまだ騙し続けようとしていました。メールを読んでいる間も樹ちゃんの話は続き、勇者部の部活の時間がすごく楽しいというセリフで自己紹介は締めくくられます。しかしみんなから日常を奪う原因となった勇者部、それを作った張本人である風先輩にとっては皮肉でしかありませんでした。

 曲が始まった瞬間、風先輩の瞳で反射光が円を描きます。それは我慢を重ねてきた風先輩の心の堰が切れた瞬間を表していました。このカットにおける表情の変化は大きな見どころです。

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立ち上がり、ふらふらと、机に足をぶつけながら隣の部屋へ移動した風先輩はテーブルに突っ伏して嗚咽を漏らします。そして、7月の決戦の直前に交わした樹ちゃんとの会話を思い出します。当時、やりたいことができたと言う樹ちゃんはその場では秘密にするも、いつか教えると告げていました。その時の夢が歌うことだったと気づいた風先輩は泣き叫びます。そして樹ちゃんの歌が流れる中、端末が音と光を発し、部屋の中が黄色の花びらに包まれます…

 

 犬吠埼家のあるマンションの前で堤防に腰掛けてお茶を飲む夏凜ちゃん。監視していたのか、風先輩になんて声をかければいいかわからなかったのか…ずっと待機していたようです。その時マンションから影が飛び出し、一度砂浜に着地した後飛び去るのを目撃します。その影…勇者へ変身した風先輩は跳躍によってものすごいスピードでどこかへ向かっていました。涙は流しつつもその顔は悲しみから鬼気迫る怒りの表情へと変わっていました。しかし飛行中、背後から呼び止められた直後に数本の刀が投げつけられます。それは大赦の勇者である夏凜ちゃんによる攻撃でした。この時の刀は柄を先にして投げられており、夏凜ちゃんが風先輩を傷つけないように配慮していることが読み取れます。細やかな演出が非常に粋です。

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刀を大剣で防ぐ風先輩ですが、夏凛ちゃんに蹴りを入れられ撃ち落とされます。何をするつもりなのかと問う夏凛ちゃんに風先輩は「大赦を…潰してやる!」と叫びます。そして刀を交えながら夏凜ちゃんに真実を伝えます。

 二人は同じ大赦の勇者でも御役目に対する意識の違う所がありました。しかし風先輩が夏凜ちゃんをからかったり、夏凜ちゃんは風先輩に張り合ったりとよく絡む二人でもあり…特典ゲームでも多くのやりとりがありました。決戦後の合宿では樹ちゃんの後遺症が治る夢を見る風先輩を見て、夏凜ちゃんが「しょうがないわね…」と一緒の布団で寝るなど、かなり打ち解けていました。そんな彼女たちが勇者同士で対峙させられる酷な戦いとなっています。

 思ってもいなかった事をいきなり告げられ簡単には受け入れない夏凜ちゃんですが、以前の勇者が犠牲にされていたと言われて動揺します。動きの鈍った夏凜ちゃんに対し、怒り狂う風先輩は夏凜ちゃんを押しこみます。理不尽な仕打ちに対する憤りを全力でぶつける風先輩。
「世界を救った代償が!これかぁ!!」
刀を弾き飛ばされた夏凜ちゃんに風先輩が大剣を振り下ろす瞬間…勇者的なタイミングで友奈ちゃんが現れ、大剣をガードします。BGMも相まって心揺さぶられる演出になっています。「どきなさい!」と叫ぶ風先輩に友奈ちゃんは毅然と断り、風先輩が人を傷つけるところは見たくないと告げます。「こんなことが許せるか!」と、どこうとしない友奈ちゃんを大剣で思いっきり斬りつける風先輩牛鬼が攻撃をガードしますが満開ゲージが4つまで貯まってしまいます。勇者の力によって飛び散った桜色の花びらと薄暗くなった夕焼けのコントラストが、美しくも虚しく儚い戦いを演出しています。素晴らしい映像美だと思います。

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大赦を許せないのはわかっている。でも、後遺症のことを知らされてても結局私達は戦っていたはずだと言う友奈ちゃんに風先輩は少し驚き、友奈ちゃんの話を聞きます。

「世界を守るためにはそれしかなかった。だから誰も悪くない。選択肢なんて誰にもなかったんです!」

しかしそのセリフを聞いて風先輩は歯を食いしばり、自分が憎む相手までをも庇う友奈ちゃんに明確に怒りを向けます。友奈ちゃんが誰も悪くないという結論に持って行こうとしていたことに気づいた時の風先輩の表情の変化は注目です。普段はのほほんとしている友奈ちゃんですが、裏ではきちんと考えている子です。たとえ自分たちを騙した相手だったとしても、憎しみに駆られて潰したところで意味は無い。それに、人のために頑張ってきた風先輩が人を傷つければ必ず後悔し、更に大きな心の傷を作ることになる。誰にも傷ついて欲しくない友奈ちゃんはこんなことを考えていたのではないでしょうか。しかし大赦への怒りに燃える風先輩には理解できない話です。

「知らされてたらアタシは皆を巻き込んだりしなかった!そうしたら皆は、樹は無事だったんだ!」
しかしそれでは世界を守れなかったかもしれないし、別の勇者候補が犠牲になっていたかもしれない。それに、それは今までの勇者部での出会いと過ごしてきた日々を否定すること。「そんなの違う!」と言う友奈ちゃんと「何が違うの!」と応酬する風先輩。友奈ちゃんの満開ゲージが4枚貯まっているのに気づいた夏凜ちゃんは友奈ちゃんを止めようとしますが、やむなく二人は飛び上がり空中でぶつかり合います。力のこもった拳で風先輩の大剣に押し勝つ友奈ちゃん。精神力によって威力の変わる友奈ちゃんが押し勝ったのは、彼女の主張の正しさを証明しているようでした。しかし友奈ちゃんはこの激突で遂に5枚のゲージを貯めてしまいます。「風先輩を止められるならこれくらい」と言う友奈ちゃんですが小さくない代償です。自分との戦いでゲージを全て貯めてしまい、散華まであと一歩のところへ迫った友奈ちゃんを見て、風先輩は動きを止めます。
「だって私は、勇者だから」
できるだけ皆が幸せになるベストな道を選択し、そのためには自己犠牲も厭わない、それが友奈ちゃんの勇者像だと感じました。バーテックスとの戦いではなく勇者同士の戦いで、しかも自分のせいで、友奈ちゃんがゲージを貯めてしまったことに絶望の表情を浮かべる風先輩。その時、風先輩を止めるように後ろから腕が回されます。

「樹…え?」
突然現れた樹ちゃんに心底驚いた様子の風先輩。本当に辛そうな悲しそうな顔で姉を抱きしめ、首を横に振る樹ちゃん。

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大切にしていた妹に止められ、風先輩は遂に泣き崩れます。そんな風先輩に憐れみの眼差しを向ける友奈ちゃんと夏凜ちゃん。
「ごめん…ごめんみんな…」
風先輩はかすれた声で懺悔します。正しい道を進んできたにも拘らず追い詰められ、更なる罪悪感を背負うことになってしまった彼女は本当に不憫で同情を禁じ得ません。そんな風先輩に樹ちゃんはスマホのメール画面を使って言葉を伝えます。
[私達の戦いは終わったの。もうこれ以上、失うことは無いから。]
バーテックスは全て殲滅したのだから、もうこれ以上失うことは無いのだから、復讐はやめて欲しいし、自分を責めないで欲しい。という気持ちが込められているのだと思います。
「でも…でも!私が勇者部なんて作らなければ!」
それでも風先輩は樹ちゃんが日常生活に不自由してきたことや夢を失ったことを知っているため、割りきれません。しかしそんな風先輩に樹ちゃんは首を振り、歌のテストの時にもらった寄せ書きを取り出して風先輩に見せます。そして自分のメッセージを書き込み、風先輩に笑いかけます。

 勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった

勇者部に入って本当によかったよ

 それを見た友奈ちゃんも自分も同じだと笑顔で伝えます。勇者部の出会いは何よりも大切だったということだと思います。ひたすらに自分を思いやり、過去の道を肯定する二人の言葉を聞き、風先輩は慟哭します。拳を振り上げる風先輩ですが、その拳を振り下ろす場所はなく…地面を殴るのを止めるように樹ちゃんは風先輩を抱きしめます。泣く姉の顔を隠すように抱きしめる樹ちゃん…彼女は最後まで涙を見せませんでした。友奈ちゃんはそんな犬吠埼姉妹から目を離し、空を見上げます。一方、夏凜ちゃんは4枚まで貯まっている自分のゲージを見つめた後、うつむきます。自分が誇りにしてきた勇者システムがおぞましいものだと知ったことへの悲しみか、それとも彼女たちを騙していた大赦の勇者である自分がなんの代償も払っていないことに対する罪悪感か…

 4人の勇者を薄暗くなった夕焼けが照らすシーンで物語は一旦幕を下ろします。

 そして樹ちゃんの祈りの歌のままエンディングへ。エンディング映像が終わると、勇者部部室で他の部員の前で歌う樹ちゃんの映像が流れます。楽しそうに歌を聞く他の4人。特に風先輩は一際嬉しそうにはしゃいでいます。それは過去にあった出来事か、それとも永遠に失われた未来か…歌い終えた樹ちゃんの笑顔で第9話は締めくくられるのでした。

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 そして次回予告、東郷さんの「これでみんなを助けることができる…」というセリフが流れるなど希望を持たせる内容ですが…

 

 キャラの表情や仕草、BGMの使い方など本当に素晴らしい回でした。エンディング映像は樹ちゃんのこれまでの生活を描いた特殊エンディングの予定だったそうですが、演出上の都合で通常の映像にしたそうですね。幻の9話エンディングは結局BDには収録されませんでしたがいつか映像化して欲しいです。